培養ペットフードの可能性について。飼い猫への給餌実験結果から言及。
細胞培養食品

培養ペットフードの可能性について。飼い猫への給餌実験結果から言及。

培養ペットフードは、培養肉と同じ作り方で犬や猫を対象にしている分野です。培養肉と同じく、従来ペットフードの高い環境負荷と動物倫理、そしてペットへの愛情から安全なものを食べさせたいというニーズから開発が進められています。

猫は実際に培養細胞の入ったペットフードを食べるのか、その嗜好性と消化率を示した論文を紹介していきます。

培養ペットフードを開発するBeneMeat

研究に参加したBeneMeat(Bene Meat Technologies)は、チェコを拠点とする培養肉企業です。

人向けの培養肉だけでなく、培養細胞をペットフード原料として利用する技術を開発しています。2023年には、同社の培養細胞が「哺乳類由来の培養細胞」として欧州の飼料原料登録簿に掲載されました。

今回の紹介する論文は、「Can cultivated hamster cells compete with chicken meat? Insights on acceptance and digestibility in domestic cats」で、BeneMeatとベルギーのゲント大学の共同研究成果となります。

培養細胞と鶏肉の比較

論文内の試験では、培養ハムスター細胞を配合した培養ペットフードと鶏胸肉を配合した鶏肉ペットフードの2種類が用意されました。

最初に10匹の猫へ両方のペットフードを与え、食べるかどうか、どれくらい食べ残すかを確認しています。その後、8匹を対象に一定期間ペットフードを与え続け、回収した糞便からタンパク質や脂質などの消化率を測定しました。

培養ハムスター細胞は乾物換算で24.4%含まれており、比較の鶏胸肉は乾物換算で18.2%配合されたものが使用されました。

猫に対する嗜好性と、鶏肉に近かった消化性

まず培養ペットフードを10匹の猫に与えたとき、10匹中9匹が問題なく食べました。1匹は途中から食べなくなり、その後の消化性試験から除外されています。

食べ残しの割合は、培養ペットフードが2.4%、鶏肉ペットフードが8.5%でした。つまり培養ペットフードはほぼ完食してもらえた結果となっています。ただし、猫が鶏肉よりも培養ペットフードを好んだかどうかを調べる専用の嗜好性試験ではないため、「鶏肉より好まれた」とまでは言えません。しかし猫が培養細胞を忌避していないことは明らかでしょう。

次に一定期間ペットフードを給餌した後に糞便を回収し、タンパク質と脂質の消化率を解析しました。仮に消化率が著しく低いとなった場合は、食べても栄養素が吸収できていないと見なされます。

結果、タンパク質の消化率は培養ペットフードが83.9%、鶏肉ペットフードが85.3%で、脂質の消化率は培養細胞の方で92.6%、鶏肉が93.3%となりました。鶏肉とほぼ変わらない数値であることから、従来のペットフードと同様に栄養素が取り込まれていることが分かります。

培養ペットフードとして確認できたこと

今回の結果から、培養細胞を含むペットフードは、少なくとも猫が一律に忌避するものではないことが分かりました。

鶏肉と比べても消化性に大きな差はなく、短期間の給餌中に継続的な体調不良も確認されなかったそうです。培養細胞を猫用ペットフードの原料として利用できる可能性を示す結果といえます。

ただし、今回の給餌期間は最大17日間になっています。長期的に与えた場合の健康や栄養状態については、今回の研究だけでは判断できません。

ですが、こういった試験に必要な培養細胞量や準備は、ヒトで試験する場合と比べると遥かに容易であることは間違いありません。

なお、今回の論文では「培養ハムスター細胞バイオマス」としか記載されておらず、細胞種、細胞株、培地、培養方法は確認できませんでした。

培養ペットフードにおける「細胞を選べる」というメリット

培養ペットフードでは、牛、豚、鶏など、人が一般的に食べる動物の細胞だけを使う必要はありません。むしろ牛や豚細胞は増やしづらいので、従来の研究で用いられてきたマウスやハムスターといったげっ歯類由来の細胞を使う企業が多く見られます。

げっ歯類由来細胞を使うメリットとしては、まず基礎研究の厚さが挙げられます。細胞株や培養方法は十分に確立されており、初期検討をショートカットすることができます。さらにバイオ医薬品の製造現場でCHO細胞(チャイニーズハムスター由来の卵巣細胞)が使われていることから、大容量で培養する方法を知っている人は知っています。

また細胞の特徴としても、増殖能は高く、栄養要求性は比較的低く、さらに一から細胞株を作る場合でも自然不死化が可能なことが分かってます。要するに大量に培養しやすい細胞というわけです。人向けの食品では採用しにくい細胞を使えることは、培養ペットフードのメリットのひとつです。

今回の論文でもハムスター由来の細胞が使用されています。しかし、どこの細胞か、どんな培地と培養方法か記載されておらず確認できませんでした。

培養ペットフードはありか?

日本では取り組んでいる人がいない分野ですが、可能性は十分にある分野だと思います。経済規模を気にしなければ、ヒト向けの培養肉よりもビジネスとしては上手くいく可能性があるのではと思っています。

その理由として、

  • 開発済みげっ歯類細胞株を用いることで開発コストが抑えられる
  • 培地、培養方法に関しても低コスト化がある程度見込める
  • 安全性試験が動物実験で直接実施可能
  • 安心安全なペットフードを求める飼い主をターゲットにして、高級ペットフード路線で攻める

などが挙げられます。

ヒト用の培養肉はどうしても開発コスト、生産コストが高くなりがちで、価格も安くないと日常に落とし込めません。しかしペットフードであれば、コストを下げつつ一定の価格で継続販売できる見込みがあります。

ただし日本のペットフード市場に限ると、そこまでのニーズがない可能性もあります。欧州の環境意識と動物倫理の関心の高さがあるが故に、上手くいきそうな雰囲気があるのかもしれません。日本でも顧客が付けば継続的なものにはなると思うので、マーケティング次第かなと思っています。

また培養ペットフードとして開発したノウハウを、ヒト用の培養肉生産にも転用できると思います。ただ、培養肉=ペットフードという認識が先に根付いてしまうと、その後の培養肉に対する消費者受容が低くなってしまう可能性もあると考えています。

結論、チャレンジする価値はあり。マーケティング重視の戦略が求められる分野、と見ています。

引用文献

  1. Bene Meat Technologies ほか「Can cultivated hamster cells compete with chicken meat? Insights on acceptance and digestibility in domestic cats」Frontiers in Veterinary Science, 2026年。

  2. Bene Meat Technologies「About us」。

  3. Bene Meat Technologies「Cultivated Meat」。

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