培養肉が一般普及するためのコスト削減ロードマップ――10ユーロ/kgは時間の問題へ
細胞培養食品

培養肉が一般普及するためのコスト削減ロードマップ――10ユーロ/kgは時間の問題へ

2026年7月、経営コンサルティングファームであるArthur D. Little(ADL)が、培養肉のコスト削減に関するレポートを公開しました。

これはADLが2025年に示した、「培養肉が一般普及するまでのコスト削減ロードマップ」に対し、この一年でどこまで進んだのかを記載したものです。

先に結論から述べると、2025年に置かれていたいくつかの数値目標について、2026年には実現可能性を示す報告や生産事例が登場しました。ADLは、目標とする最終製品コストへの到達について、もはや実現可能性ではなく時間の問題であると結論づけています。

日本国内の話を聞いていると「培養肉なんてまだまだ」という雰囲気ですが、従来肉と同じ製造コストになるのは時間の問題、という今回のようなレポートも存在します。実際本当かどうかは当人しか分からないと思いますが、レポートに書かれている内容を確認していきます。

本記事では、ADLが2025年に示したコスト削減ロードマップの数値目標を説明したのち、2026年の進捗を記載していきます。併せて、置かれた数値目標と、日本の開発状況も比較していきます。

2025年に設定された最終目標は「10ユーロ/kg未満」

2025年のレポートでADLが掲げた最終目標は、培養肉の最終製品コストを10ユーロ/kg未満にすることでした。

なぜ10ユーロ/kgなのか。これは、培養肉が従来の食肉とコスト面で競争して、社会へと普及するために必要な目標として設定されています。要するに今のお肉のコストと同じになることが普及の大前提とされているわけです。

そしてここでいう培養肉の最終製品コストは、培地、その他の原材料、包装、バイオプロセス、食品加工工程までを含んだ、完成品段階の製造コストです。設備の減価償却費や利用料、製造現場の人件費なども、各工程のコストに含まれると考えられます。一方で、物流費、販売マージン、企業利益などを含む店頭販売価格ではありません。

つまりここでの10ユーロ/kgという数字は、市場に参入するための絶対条件ではなく、培養肉事業の損益分岐点となる指標でもなく、培養肉の低コスト化の最終目標でもありません。あくまで食肉市場の中で従来肉と競争し、大規模に普及するための製造コスト目標として置かれています。

2025年に示された代表的な数値

ADLは10ユーロ/kg未満へと到達するために必要なコスト削減項目をいくつか挙げています。その中で、特段重要だと主張していたのが次の3つです。

  • 培地コストが0.2ユーロ/L
  • 細胞密度6000万 cells/mL以上
  • 10,000 L以上の培養槽での運転

これら3つは、2025年時点ではいずれも未実証の条件でした。

2026年版レポートでは、この3つについて、実際にどのような数値や生産実績が現れたのかが整理されています。

培地コスト――目標は0.2ユーロ/L、2026年には実現可能な範囲へ

2025年に設定された培地の目標は、食品グレードかつタンパク質フリーの培地で0.2ユーロ/Lでした。

培地は知っての通り、培養肉の製造コストを構成する最大の費用項目です。そのため、培地コストが0.2ユーロ/Lまで下がるかどうかは、最終製品コストの10ユーロ/kgを実現する上で重要な条件です。

2025年時点では、食品グレード・タンパク質フリー培地の価格は1~1.5ユーロ/Lとされていました。配合の最適化、スケール拡大、調達条件の改善によって0.3ユーロ/Lまで下げる道筋は示されていた一方、0.2ユーロ/L未満には追加の研究開発が必要とされていました。

ただし、すでに0.2ユーロ/Lの培地があるという意味ではありません。培地メーカーへの発注量や購入契約量を増やすことを前提にすれば、0.2ユーロ/Lが非現実的な目標ではなくなったという位置づけです。

ちなみに日本だと、そもそもまだ食品グレードかつタンパク質フリーの培地が登場していない状態です。

ADLは、「培地価格を0.2ユーロ/Lまで下げられるか」という問いに対する確信度を「High(高い)」と記載しています。

細胞密度――2026年には55~100 g/Lが報告された

2025年時点では、目標とする生存細胞密度に到達するために、まだ相当な改善が必要とされていました。

これに対して2026年版では、主要な培養肉企業から報告されている細胞・バイオマス密度として、約55~100 g/Lという数値が示されています。2025年版では生存細胞密度をcells/mLで示していましたが、2026年版では重量ベースの細胞・バイオマス濃度としてg/Lが使われています。指標と単位が異なるため、単純な前後比較はできません。

「○○Lで培養すると、培養肉ってどれくらい作れるんですか?」と聞かれることがありますが、単純計算では、培養液1 L当たり55~100 gの細胞・バイオマスに相当します。ただし、重量の定義や回収歩留まりが統一されていないため、最終製品量をそのまま示す数字ではありません。

細胞・バイオマス密度が高くなれば、一回の培養で回収できるバイオマス量が増えます。その結果、一定量の製品を生産するために必要な培養回数や培地使用量を減らすことができます。

一方で、55~100 g/Lという数値は培養槽の運転方式によって異なり、一部は実際の運転結果ではなくモデル計算に基づいているとのことです。この数値は微生物培養に近い数値ですので、細胞培養で到達しているのは純粋にすごいなと思います。

そのため、この項目に対するADLの確信度は「Med-high(やや高い)」となっています。

2025年には目標密度へ到達できるかが未解決でしたが、2026年には経済性を成立させ得る数値が報告され始めたということです。

ちなみに日本では、1/10程度の結果しか見たことがありません。

培養規模――10,000 L超が未実証だったが、22,000 Lまで拡大

2025年時点では、培養肉の生産を10,000 Lを超える食品グレード培養槽で実施できるかが、未解決の課題として残っていました。

その壁を越える事例として紹介されたのが、オーストラリアの培養肉企業Vowが保有する22,000 Lラインと、同設備を利用したフランスの培養肉企業PARIMAの協業です。当ブログでもPARIMA、22,000Lスケールで培養肉の生産を実証で取り上げています。

PARIMAは、オーストラリアの培養肉企業Vowとの協業によって、培養アヒル肉のプロセスをこの22,000 Lラインへスケールアップしました。両社は、複数トン規模の生産に到達したと報告しています。

正確な生産量や培養条件はレポート内では公開されていませんが、前年まで未実証だった10,000 L超の培養について、いきなり22,000 Lでの生産事例が登場したことになります。

そのため、この項目に対するADLの確信度は「High(高い)」です。

日本では今年、やっと200 Lまで達成したとの報告が上がっています。

2026年の時点では約40ユーロ/kg。そこから10ユーロ/kgへの削減に向けて。

ADLは現状の進捗を踏まえた上で、2026年時点の最終製品コストを40ユーロ/kg台前半としています。ここから2030年ごろまでに約10ユーロ/kgへ下げるというのが、今回示されたコスト削減のロードマップです。

ADLの試算では、40ユーロ/kgから10ユーロ/kgまでのコスト削減要因を、生産規模や生産量の拡大による効果が約75%、細胞や培養プロセスの生物学的性能の改善による効果が約25%と分けています。

つまり、細胞の増殖速度や培地組成の改善だけではなく、むしろスケールメリットを利用したコスト削減によって最終製品コストが下がっていくと推測しています。

2025年時点では、培地価格、細胞密度、大型培養槽という技術条件そのものが実現できるかが大きな論点でした。

2026年には、それぞれについて実現可能な数値が報告され始めました。そのため、今後の中心的な課題は技術をさらに大幅に進歩させることだけではなく、実際の生産量を増やし、量産効果を発生させられるかどうかへ移りつつあります。

(まとめ)10ユーロ/kgは時間の問題

2026年時点での最終製品コストは約40ユーロ/kgで、まだ目標コストの4倍以上です。

一方で、2025年に未解決だった条件に対して、2026年には次の数値が示されました。

  • 培地コストが目標である0.2ユーロ/Lの範囲に入り始めた。
  • 細胞・バイオマス密度は55~100 g/Lまで到達。
  • 培養規模は22,000 Lまで実証された。

まだ最終目標そのものを達成したのではありませんが、その試算を成立させるために2025年時点で置かれていたいくつかの数値目標に対して、2026年には現実の技術や生産実績が辿り着き始めているということです。

2025年時点では、10ユーロ/kg未満は将来の構想であり、具体的な達成時期は不明でした。しかし2026年の進捗を踏まえ、2030年ごろまでに約10ユーロ/kgへ近づく、信頼できる道筋が新たに示されました。

ADLは培養肉が10ユーロ/kgへ到達できるかどうかについて、もはや実現可能性の問題ではなく、生産量が増加し、低コスト化が進むまでの時間の問題であると結論づけています。

引用文献

  1. Arthur D. Little「Cultivated Meat: A Sustainable & Profitable Protein Revolution?」2025年。

  2. Arthur D. Little「Cultivated Meat: One Year On — Revisiting the path to cost parity with conventional meat」2026年。

細胞培養食品ラボ メールマガジン

月1回程度、新着の関連記事とニュース情報等をお届けします。登録者特典として「国内培養肉業界リスト2026」を配布中です。いつでも配信停止可能です。