PARIMA、22,000Lスケールで培養肉の生産を実証
細胞培養食品

PARIMA、22,000Lスケールで培養肉の生産を実証

仏培養肉スタートアップのPARIMAは2026年7月2日、Vowの22,000L生産ラインを用いて、培養アヒル肉の生産を実証したと発表しました。

この発表内容をまとめていきます。

22,000L生産ラインでの培養アヒル肉生産

PARIMAは、シドニーに拠点を置くVowと協業し、Vowが保有する22,000Lの生産ラインで培養アヒル肉を生産しました。

Vowは、これまでに建設された中で最大規模とされる商業用の培養肉生産施設を運営しており、同施設には22,000Lの商業ラインを含む複数の撹拌槽型バイオリアクターが設置されています。

今回の生産では、22,000Lスケールの培養を1回で行ったとされています。

PARIMAは、この結果を「培養肉が産業スケールで、かつ実用可能なコストで製造できることを示すもの」と位置づけています。

製造コスト99%削減という主張

PARIMAは、今回のマイルストーンにおいて、以前の生産ランと比較して製造コストを99%削減したと発表しています。

その要因として挙げられているのは、主に以下の2点です。

  • 細胞培養収率の改善
  • 大容量スケールで運用することによる効率化

培養肉では、これまで「小スケールでは成立しても、大型化したときに同じ性能を維持できるのか」「培地コストをどこまで下げられるのか」「産業スケールで単位経済性が成立するのか」が大きな論点でした。

今回の発表では、PARIMA側はこれらの技術的ハードルをクリアしたと説明しています。特にこの規模にスケールアップしても、培養効率を落とさなかったというところが特筆すべき点です。

同社CEOのNicolas Morin-Forest氏は、培養肉の経済的成立性について「もはやパイロットランからの外挿ではない」とコメントしています。

足場材・マイクロキャリア・成長因子・分化工程なし

PARIMAのプラットフォームで特徴的なのは、細胞を組織化させる方向ではなく、未分化のバイオマスとして浮遊培養する点です。

プレスリリースでは、同社の細胞培養プロセスについて、以下のように説明されています。

  • 非遺伝子組換え細胞を使用
  • 未分化のバイオマスとして浮遊培養
  • 足場材を使用しない
  • マイクロキャリアを使用しない
  • 成長因子を使用しない
  • 分化工程を含まない

この点は、従来の「細胞を増やし、足場材上で成熟させ、筋組織に近づける」という培養肉のイメージとは異なります。

PARIMAは、自社のプロセスをバイオマス発酵に近いものとして説明しています。

初回で22,000Lへ到達

PARIMAのCTOであるDr. Victor Sayous氏は、今回のプロセスが初回の試行で22,000Lスケールに到達し、小スケールと比較して性能低下がなかったと説明しています。

培養プロセスのスケールアップでは、撹拌、酸素供給、せん断応力、混合、代謝老廃物の蓄積など、小スケールでは見えにくい問題が発生します。

そのため、22,000Lという大型スケールで、初回から性能低下なしに運転できたという主張は、PARIMAの技術力の高さを際立たせます。

ただし、プレスリリース上では、具体的な細胞密度、収量、培地組成、培養日数、生産量、コスト内訳などの詳細データは示されていません。

自社工場を持たない生産モデル

今回の発表でもう一つ興味深いのは、PARIMAがVowの生産インフラを利用している点です。

培養肉企業はこれまで、研究開発から細胞株、培地、製造設備、食品加工、販売まで、すべてを自社で抱えようとする傾向がありました。

しかし、今回のPARIMAとVowの協業は、培養肉産業においても、専業化されたバリューチェーンが形成されつつあることを示しています。

プレスリリースでは、Arthur D. LittleのClément Santander氏のコメントとして、以下のような産業構造の変化が紹介されています。

  • 培地は専業サプライヤーから購入する製品になりつつある
  • バイオ生産は受託施設を通じたサービスになりつつある
  • 下流工程は既存の食品インフラが再利用されつつある
  • すべての資産を自社保有するモデルから、専門化されたパートナーのエコシステムを活用するモデルへ移行している

これは、発酵産業やその他のバイオものづくり産業が成熟する過程でも見られてきた流れです。

培養肉業界でもスタートアップが全てを開発してきていましたが、今後は「細胞を持つ企業」「培地を供給する企業」「製造を受託する企業」「食品化・販売を担う企業」など分業が加速する方向に進みそうです。

10ユーロ/kg未満への言及

Arthur D. LittleのSantander氏は、培養肉の技術面について、初期に問われていた多くの課題はほぼ答えが出てきていると述べています。

同氏は、生物学的性能が発酵のような成熟したプロセスの範囲に近づいており、生産も産業スケールで実証されたと説明しています。

さらに、今後のコスト削減は、主に生産量とスケールメリットによって進み、生物学的な改善の寄与は相対的に小さくなるとしています。

プレスリリースでは、製造コスト10ユーロ/kg未満について、「多くの人々が予想していたより低い」と表現されています。

ただし、この10ユーロ/kg未満という数字についても、現時点では具体的な達成時期や前提条件が示されているわけではありません。

PARIMAの規制承認の進展

PARIMAは、規制面でも進展があったとしています。

同社は2025年10月に、シンガポール食品庁から培養鶏肉の承認を取得しました。その6か月後には、培養アヒル肉についても承認を取得しています。

これにより、PARIMAは2種の培養食品について承認を得た世界初の企業になったと説明されています。

また、2026年5月には、2025年に提出していた申請について、Food Standards Australia New Zealandによるリスク評価を完了したとされています。

まとめ:培養肉産業にとっての進展

今回の発表は、培養肉産業にとって大きく3つの意味を持ちます。

1つ目は、大型バイオリアクターでの生産実証です。22,000Lというスケールで培養細胞生産を実施したという点は、産業化に向けた重要なマイルストーンです。

2つ目は、プロセスの単純化です。PARIMAのプロセスは、足場材、マイクロキャリア、成長因子、分化工程を使わないと説明されており、従来型の培養肉製造とは異なる方向性を示しています。

3つ目は、受託生産インフラを活用するモデルです。Vowのような製造インフラを活用することで、各社が自前で大規模工場を建設する必要性が下がる可能性があります。

培養肉はこれまで、技術実証、規制承認、コスト、スケールアップ、市場受容のそれぞれが課題として扱われてきました。

今回の発表は、そのうち特にスケールアップと製造コストに関する進展として位置づけられます。

一方で、実際の商業展開には、規制承認、販売可能な市場の拡大、消費者受容、製品価格、既存食品との比較など、まだ複数の論点が残っています。

培養肉が「作れる技術」から「産業として回る技術」へ移行できるのか。今回のPARIMAとVowの協業は、その移行を示す事例の一つとして注目されます。

引用文献

  1. PARIMA「A vision we’ve chased for 7 years: multi-tonne-scale cultivated meat production」2026年7月2日。

  2. Arthur D. Little「Cultivated meat: One year on」。

  3. PARIMA「PARIMA Becomes the First European Company to Obtain Approval for Cultivated Meat」2025年10月。

  4. PARIMA「PARIMA Becomes the First Company to Obtain Cultivated Food Approval Across Two Species」2026年4月。

  5. Food & Drink Business「Parima cell cultured duck passes FSANZ safety assessment」2026年。

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