培養肉企業が扱う細胞について解説① ~細胞の見るべきポイント4点~
培養肉企業のニュースを読むとき、私はまず細胞に着目します。なぜなら細胞を見れば、その企業が作ろうとしている製品、生産への距離感、技術開発で重視している点がかなり見えてくるからです。
本記事では、培養肉企業が扱う細胞を見るときに、私が意識しているポイントを4つ紹介します。次回の記事ではその視点を使って、国内の培養肉ベンチャーや培養肉研究の事例を実際に読み解いていく二部構成でお届けします。
細胞の情報を得るときに意識するのは4点
培養肉企業の細胞情報を集めるときは、単に「ウシ細胞です」「鶏細胞です」だけでは情報が足りません。その企業の狙い・進捗を見るためには、もう一歩情報を集める必要があります。
そこで、今回は私がいつも意識して見ているポイントを4点お伝えします。次の4点を意識して整理するだけで、自分の理解、他人への説明がより分かりやすくなるかと思います。
①由来の動物は何か
まずは細胞の由来となっている動物についてです。これはどの企業も基本的に公表しているので、分かりやすいと思います。ウシの細胞、鶏の細胞、サーモンの細胞など、最終製品に大きく関係するので、公表しない企業はほぼありません。もう一歩踏み込むなら、その動物の組織をどうやって手に入れたのだろう?というところまで見ると、面白い背景が見えたりします。
由来の動物から分かることは、その企業が何の培養肉を作ろうとしているかです。牛の細胞を使っているのであれば培養牛肉を作ろうとしていますし、サーモンの細胞を使っているのに培養マグロとして売ることは難しいです。狙う市場や背景が若干異なるので、その動物の細胞を使う理由に企業の経営判断が透けて見えることがあります。
②どんな細胞を使っているのか
次に、どんな細胞を使っているのかを見てみましょう。これは企業の説明の仕方によって、簡単に分かる場合と、特定まではできない場合があります。
細胞の説明の方法としては大きく2パターンあります。ひとつは「○○組織由来の細胞」という説明と、もうひとつは「○○になる細胞(もしくは特定の細胞種に言及する)」という説明です。何が違うの?と思うかもしれませんが、実は○○に入る言葉が同じでも、説明が違うと細胞が異なる可能性があります。
例えば脂肪になる細胞、つまり脂肪前駆細胞だと企業が説明していれば、どんな細胞か、という答えはすぐに埋まります。一方で脂肪組織由来の細胞という呼び方をしているときは、細胞自体が特定されているわけではなく、あくまで入手方法を説明しているだけになります。脂肪にならない脂肪組織由来の細胞を増やしているかもしれませんし、脂肪になる細胞もならない細胞も含めた細胞集団の可能性もあります。あるいは、言い方がややこしいだけで、全部脂肪になる細胞の可能性もあります。
ですので、「○○組織由来の細胞」と企業が説明していた場合は、前述の可能性も踏まえながら、勝手に決めつけたり翻訳せず、言葉通りにインプットすることを心掛けましょう。
ここから分かることは、その企業がどんな製品を作ろうとしているかです。例えば豚の脂肪前駆細胞を使っている企業は、培養豚脂肪を作ろうとしており、牛の筋芽細胞(筋前駆細胞、筋衛星細胞、筋幹細胞なども含め、筋肉の元になる細胞を指します)を使う企業は培養牛肉を作ろうとしていることが分かります。
ただ、実際には増やしやすい線維芽細胞を使っている企業も多いです。線維芽細胞は筋肉にはならず、蓄積できる脂肪の量も少ないですが、細胞培養によるタンパク質生産という側面から見ると、線維芽細胞は最適解のひとつになり得ます。
どんな細胞を使っているのかが分かると、その企業の最終製品の形やマーケティングまで見えてくるのです。
③細胞の状態
細胞の種類を確認したら、次に細胞の状態を見ていきます。少し説明が長くなってしまいますが、重要なところなのでひとつひとつ確認していきます。
細胞の状態で最初に確認してほしいのは、その細胞が初代細胞かどうかです。初代細胞とは、動物の身体から取り出して、培養し始めたばかりの細胞のことです。初代細胞は体内の細胞に近い性質を持っており、組織から細胞を取り出して培養を始めることを初代培養と言います。
初代細胞を扱うメリットは、細胞が準備しやすいこと、培養による変化の影響が比較的少ないことです。特に「細胞培養」は、食品製造上未知なプロセスであるため、安全性を評価する際には、培養によって細胞が変化し、食べたときに害を及ぼす物質(アレルゲン等)が生じていないかなどを確認する必要があります。それが初代細胞の場合は多少説明しやすくなります。
デメリットとしては、増える回数に限界があったり、動物個体ごと、採取ロットごとの差も出てしまうことです。培養肉のように長期間、大量に、同じ品質の細胞を増やしたい場合には、ここが大きな課題になります。そのため、製造工程を考えて細胞を改良する企業が多く見受けられます。
多くの企業は初代細胞ではなく、培養肉用に開発した細胞を使っています。その場合は、「長期間培養可能」「ほぼ無限に増殖」「不死化細胞」といった、増えることのできる限界を超えたことを示す言葉がよく使われます。細胞には寿命が存在するため、培養し続けると途中で増えなくなってしまうのが普通ですが、通常の細胞が分裂できる回数を超えて増え続けられる細胞を作ることもできます。そうした細胞を使っている場合、企業は上記のような言葉を使って他社との差別化を図ります。このような言葉が出てきたときに確認してほしいのが、どうやってその細胞を作り出したのかです。
増え続けられる細胞の作り方は大きく3つあります。
一つ目は細胞を培養し続け、自然に増え続けられるよう突然変異した細胞を手に入れることです。植物などの品種改良方法に似ており、培養すること以外に特別な人為的操作を行っていないため「自然不死化」と呼ばれます。
二つ目は、増え続けられる遺伝子を細胞に加える方法です。細胞が寿命を迎えてしまう要因として、細胞が分裂するにつれて徐々に短くなっていく染色体末端のテロメアの存在が挙げられます。このテロメアが一定より短くなってしまうと、細胞の分裂が停止し、死を迎えてしまうのです。そのため、このテロメアを伸ばす遺伝子を細胞に加えてテロメアの短縮を防ぐことが、寿命を克服する代表的な手段のひとつになります。
三つ目は、ES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞を用いる方法です。多能性幹細胞と呼ばれる細胞は、これから多くの種類の細胞になることができる、ポケモンで言うとイーブイのような細胞です。様々な種類の細胞になることができるという特徴の他に、自己複製能が高い、つまり極めて長い期間培養することができるという特徴があります。これは前述したテロメアを伸ばす遺伝子が、高いレベルで発現していることが理由のひとつです。
iPS細胞は、体細胞に初期化因子を導入して、多能性幹細胞のような状態へ戻すことで作製されます。そのため、自然に生じた細胞ではなく、人為的な操作によって作られる細胞です。一方、ES細胞は、受精卵から発生が進んだ受精胚に由来する多能性幹細胞です。iPS細胞のように体細胞へ人為的に遺伝子を導入して作製するものではないため、その点では説明しやすい側面があります。一方で、受精胚由来であることが動物倫理上どのように受け止められるか、多能性幹細胞として意図しない細胞へ分化していないかなどは、今後の論点になります。
ここまで説明したように、細胞自体が初代細胞であるかどうか、そうでないならどうやって開発した細胞なのかに着目してみましょう。ここで分かることは企業の重視している点です。生産効率を重視しているなら初代細胞以外を使っているでしょう。一方で実現性や開発スピードを重視するなら、初代細胞を使う場合もあります。両方を重視するなら、初代細胞ではなく、かつ規制や消費者説明の面でも比較的説明しやすい自然不死化のような方法を取る選択肢があります。ただし、これには長い開発期間が掛かってしまいます。
各社の思惑や進捗状況がはっきり見て取れるのが細胞の状態ですので、ここは押さえておくと企業間の比較がしやすくなると思います。
④細胞の増え方
最後に、ここも見ておくと参考になる、という点が細胞の増え方です。ここでは企業の培養方法そのものではなく、細胞側から見た特徴として「細胞の増え方」と呼ぶことにします。つまり、その細胞がどのような培養方法に向いているのか、という視点です。
平面培養なのか、足場材料を使った三次元培養なのか、足場の必要ない浮遊培養なのか、この3つのうちどれにあたるかを見ておくと良いかと思います。培養の規模を大きくしやすいのは、足場の必要ない浮遊培養が可能な細胞になっていることです。
初代細胞を足場のない浮遊細胞にするのは極めて難しいです(多能性幹細胞は除く)。なので、細胞の状態を見たときに初代細胞と説明されていると、大量生産は大変そうだなと思ってしまいます。細胞を長期間培養できるようにする理由には、細胞を浮遊培養に適応させる準備も意図されていたりします。
長期間培養可能な細胞であると知ったときには、その細胞はどうやって増やしているのか、浮遊培養できるのか、まで見ておくと良いでしょう。
まとめ
以上、培養肉企業の細胞で見るべきポイント4点、「由来の動物」「細胞の種類」「細胞の状態」「細胞の増え方」を説明しました。この4点を意識することで、企業の状況整理がスムーズになるかと思います。
次回はこれらを踏まえた上で、実際に国内培養肉ベンチャー・培養肉研究を読み解いていきますのでお楽しみに。